真心の伝わる政治を!
大串 ひろやす
令和2年第4回定例会
ケアラー支援について
〈質問通告〉
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高齢化が進み、介護を必要とする人の数が増え続ける中、家族などの介護や看護に追われ、介護者=ケアラー自身が体調を崩したり、社会から孤立したりすることが大きな課題となっている。ケアラーを支援する制度や仕組みが必要となっている。そこで、ケアラー支援についての基本的な考え方を問う。
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ケアラー支援ということでは、国は平成 27 年策定の新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)の 7 つの柱の一つには「認知症の人やその家族の視点の重視」が加えられたこと、また平成 29 年には介護保険の基本指針に「介護に取り組む家族等への支援の充実」を示したことなどは評価できる。そこで、今策定中の第8期介護保険事業計画について、ケアラー支援を施策項目として掲げ推進することを提案する。所見は。
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今後の具体策とし
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ケアラー支援条例の策定
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千代田区版「ケアラー手帳」の配布
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千代田区版「ケアラー支援マニュアル」の作成と配布
以上、提案する。所見は。
〈質問と答弁の全文〉
令和2年第4回定例会にあたり、公明党議員団の一員として一般質問いたします。
質問の趣旨は、ケアラーと言われる家族などの介護を無償で行っている人たちへの支援はいかにあるべきかを問い、リスクの高いケアラーを早期に発見し適切な支援につなげていくことにあります。
さて、昨年の10月、22歳の孫である女性が同居していた祖母を殺害するという痛ましい事件があり、その判決が先日ありました。報道によれば、祖母はアルツハイマー型の認知症を患っており排泄などの身の回りのことが一人でできない要介護4でした。介護は孫の女性が一人で行うこととなり、幼稚園教師として勤め始めて一か月後でしたが祖母との同居が始まりました。同居して2週間で「介護は無理かもしれない」と親族に伝えます。しかし、変わりませんでした。事件が起きたのはそんな生活が5か月続いた時のことです。
裁判では、女性が祖母の介護を始めて3か月目には、疲労や重度のストレスから腎臓が悪化し重度の貧血になったことや「軽いうつ病」との診断を受けたことも明らかになりました。判決は懲役3年、執行猶予5年でした。裁判長からは「介護による睡眠不足や仕事のストレスで心身ともに疲弊し、強く非難できない」との結論づけがありました。(10/28日毎日新聞より)
介護に詳しい淑徳大学の結城康博教授は「周囲が女性を追い込んでいる。ケアマネジャーはあくまで『祖母の介護をどうするか』の視点で考えるので、女性のことを考える人は誰もいなかっただろう」と述べています。
同じような事件が今年も5月5日に埼玉県で26歳の娘が60歳の母を殺害するということが起きています。「母の介護に疲れた」と。このような事件が毎年20件から30件起きています。
ケアラー(介護者)の実態はどうなっているのか、公的な調査はありませんが、(一社)日本ケアラー連盟とNPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンが平成22年に行った実態調査があります。全国の21,641所帯へアンケートを行ったもので回答は10663所帯ありました。その内、家族や身の回りの人の「介護」、「看病」、「療育」、「世話」などを行っているケアラーは2075人であり、率でいうと19.5%となります。その2075人を対象とした調査結果からです。(スクリーン1を表示)
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身体の不調を感じている人は2人に1人、その内20人に1人は受診したくてもできない状況にあります。左の円グラフです。
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心の不調を感じている人も4人に1人以上います。こちらも20人に1人は受診したくてもできていません。真ん中のグラフです
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また、5人に1人は孤独感を感じています。右になります。(1を閉じる)
(現物を示し)この他にもたくさんの項目について調査されています。なお、調査ではケアをしていない人は6269人いましたがその方へ将来のケアについて質問しています。なんと84.5%の人がケア・介護することへの不安を感じていると答えています。(現物を下げる)
二度と介護を理由とする痛ましい事件を起こさせないためにも介護するケアラーへの支援が必要であり、特にうつなど心が不調であるケアラーを早期に発見し必要な支援につなげること、また、社会から孤立することなく本人が尊厳を保ちながら無理なく介護を行うことができるようすべきであります。そのためにはケアラー支援の制度・仕組みの構築、そして法的基盤の整備が喫緊の課題であります。
そこで、改めて、ケアラーに対する支援についての基本的な考え方をお伺いいたします。
次に、今、策定中の第8期介護保険事業計画についてであります。
ケアラー支援ということでは、そもそも2000年に発足した介護保険制度の一つの目的もそこにあったものと思います。それまでの日本の福祉は、家族による支えを柱とする「日本型福祉社会論」という考え方が主流でした。1978年版の厚生白書には同居家族を「福祉の含み資産」として表現したことはその象徴であります。そのような中において、介護保険制度は「家族介護」から「介護の社会化」へとまさに価値観の転換を目指して作られたわけですが、当初は二つの大きな柱がありました。
一つは、制度全体を通しての理念「高齢者の自立支援」であります。もう一つが同居する家族の介護負担を少なくすること、つまり理念を支える「在宅ケアの推進」であります。1994年の「高齢者介護・自立支援研究会報告書」に書かれています。「高齢者の自立支援」については省きます。もう一つ「在宅ケアの推進」にはこう書かれています。「家族による介護に過度に依存し、家族が過重な負担を負うようなことがあってはならない。在宅ケアにおける家族の最大の役割は、高齢者を精神的に支えることであり(中略)家族が心身ともに疲れ果て、高齢者にとってそれが精神的な負担となるような状況では、在宅ケアを成り立たせることは困難である」と。必要なことが書かれました。しかし、どういうわけか、こちらの方は介護保険法の総則に書かれることはありませんでした。
ここにきてようやく国はケアラー支援についても明記されるようになりました。例えば、平成29年の第7期保険事業計画策定のための基本指針には「介護に取り組む家族等への支援の充実」と書かれたことです。
区の介護保険事業計画におけるケアラー支援についてですが、「家族介護者支援事業」と「介護カウンセリング事業」があります。家族介護者支援は、孤立を防ぐため介護者同士の交流を図るための家族会の開催やまた介護に関する講習会など安心センターが行っています。カウンセリングは介護者のストレスやうつなど精神的な不調に対応するもので区が行っています。さらに、社協とボランティアの方々による家族のためのサロンが開かれています。コロナ禍においてもこのような活動ををされている安心センターや区の職員また社協やボランティアの皆様に感謝しています。
これらを評価した上で、ケアラー支援の新たな事業の創設や拡充が必要と考えます。それは、自ら手を挙げてカウンセリングや家族会などに参加できる人はいいのですが、問題は一人で悩み我慢しているケアラーです。特に精神的にうつにあるようなリスクの高いケアラーをどう探し出し必要な支援つなげていくかであります。
まずはケアラーの実態を把握するための調査が必要です。また、介護しているケアラーも「大切な一人である」と多くの人に理解してもらうための周知と啓発も必要となります。ケアラー本人にも「あなたも大切な一人である」ことを知ってもらうこと、また地域の方に理解してもらうことは地域でケアラーを支えることにつながります。そして事業者の方に理解してもらうことは介護離職をなくすことにつながるでしょう。さらに、人材育成や日常のつながりです。ケアラーと担当者が日常からつながっていることは何よりも大切です。そこで、アウトリーチによるつながりをつくるため次に述べますがアセスメントシートやケアラー手帳を持参し一緒に記入するなどしてはどうでしょうか。
そこで、現在、第8期の介護保険事業計画を策定中でありますが、ケアラー支援を大きな柱の一つとして掲げ、目指すべき方向性を示した上で、申し上げましたような各事業を設けてはどうでしょうか。ご所見をお伺いします。
次に、今後の具体策についてであります。
今年3月ですが埼玉県は全国初となる「ケアラー支援条例」を制定しました。条例は、ケアラーが個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができる社会の実現を目的としています。ケアラーの権利を謳いその権利擁護を定めたものであります。
介護保険法では謳いきれなかった家族による過度な介護負担の軽減、つまりケアラー支援を条例で担保したことになります。20年前に比べ今は老老介護問題、8050問題、ダブルケア問題、ヤングケアラー問題、介護離職問題などケアに関する複雑な問題が一層表面化しています。このような時にケアラー支援条例を制定したことは誠に意義がありすばらしいことだと思います。今後、全国の自治体でケアラー支援条例が制定されることを望むものです。
そこで、ケアラーの権利を謳いその権利擁護を定める(仮称)千代田区ケアラー支援条例の制定を提案いたします。ご所見をお伺いいたします。
次に、家族介護者支援マニュアルとケアラー手帳についてであります。(スクリーン2を表示)
家族介護者支援マニュアルは厚労省が平成30年に作成し公表したものです。サブタイトルは「介護者本人の人生の支援」となっています。「これからの家族介護支援施策の目指すべき方向性」にはこう書かれています。(2を閉じて3を表示)
「家族介護者を『要介護者の家族介護力』として支援するだけでなく『家族介護者の生活・人生』の向上に対しても支援する視点をもち、要介護者と共に家族介護者にも同等に相談支援の対象として関わり、共に自分らしい人生や安心した生活を送れるよう、(中略)家族介護者にまで視野を広げ相談支援活動に取り組むことです」と。その通りであります。(3を閉じて4を表示)そして、マニュアルには介護者のアセスメントシートも付けてくれています。
こちらは日本ケアラー連盟のホームページにある「ケアラー手帳」の紹介です。
ケアラー連盟の牧野史子代表理事にお会いしお話を聴くことができました。「介護している人はストレスや病気にうすうす気がついても自分のことは後回しにすることが多い。そこでこうしたケアラーに自分の心や体の健康に向き合うきっかけにしてもらおうと手帳を作りました」と。表紙には「大切な人を介護しているあなたも大切な一人です」と書かれています。(4を閉じる)健康状態やストレスをチェックするリストもついています。いらだちや愚痴を書き込むページもあります。牧野氏は「この手帳が介護者と支援する人がつながる仕組み作りをする上での一つのツールです。だからすべての自治体に導入してもらい手帳をきっかけに、介護者を定期的に訪問したり見守ったりしてほしいです」と。また「手帳は特に認知症の方を在宅で介護している家族の方に役立つものです。認知症を診断する専門病院などでの診断後に介護者に渡し地元の支援者とつなげるようにすれば孤立しないでしみます」と、述べていました。とても素晴らしい手帳であります。文京区では認知症の人の介護をしている方向けの手帳として作成し配布しています。
「家族介護者支援マニュアル」と「ケアラー手帳」についてその特徴と有効性についてご紹介させていただきました。活用の方法については先に述べた通りです。
そこで、「家族介護者支援マニュアル」を冊子として安心センターや関係する部や課の職員に配布すること、またケアラー手帳については千代田区版を作成しケアラーの方へ訪問しながら配布してはどうでしょうか。ご所見をお伺いいたします。
質問は以上であります。
区長、関係理事者の前向きな答弁を期待し、一般質問を終わります。
ありがとうございました。
〈保健福祉部長答弁〉
大串議員のケアラー支援についての御質問にお答えをいたします。
介護保険制度は、介護の社会化を掲げて2000年にスタートいたしました。本区において、地域包括ケアシステムの深化・推進を目指し、家族を取り巻く地域の様々な主体が連携し、在宅での高齢者の生活を地域で支える仕組みを充実させてまいりました。議員御指摘のとおり、介護制度を考える上で先の見えない介護への不安や疲労を抱える介護者への支援は欠くことのできない重要な課題です。
ケアラーの定義は、日本ケアラー協会の定義によれば、心と体に不調のある人の介護、看病、療育、世話、気遣いなど、ケアの必要な家族や近親者、友人、知人などを無償でケアする人とされ、要介護高齢者の介護者よりも幅が広いものとなっています。
本区では、これまでレスパイト事業として介護者への支援を進めてまいりました。例えば、介護を担う家族が休養したいときや所用で外出したいときに利用できるショートステイの増床をするほか、医療措置が必要な高齢者を一時的に病院で受け入れる医療ステイ、認知症高齢者在宅支援ショートステイを充実させてまいりました。
また、24時間365日の相談体制を取るかがやきプラザ相談センターの設置、麹町、神田の両あんしんセンターの職員を手厚く配置することによって、どのような相談も受け止め対応するよろず総合相談の充実をし、一昨年度から神田地区ではアウトリーチ型の見守り相談窓口事業として、自ら声を上げない地域の高齢者やその家族の状況把握と支援に取り組んでおります。
さらに、特に介護者の不安が大きい認知症については、家族支援が重要との認識の下、家族会や認知症の当事者とその家族が交流する機会として本人ミーティングの開催を積極的に支援しております。
第8期介護保険事業計画の策定に当たって令和2年3月に実施した在宅介護実態調査からは、主な介護者は子、配偶者が約76%を占め、介護者が不安に感じている介護は認知症状への対応が最も多いことが明らかになりました。これらを受け、本区では、国が示す地域共生社会の実現を踏まえ、支え合える地域づくりを重点事項の一つに掲げ、相談体制の充実、つながりある地域づくり、認知症予防・ケアの充実、高齢者の権利擁護の推進といった施策を通して、地域社会全体で高齢者の介護を支える体制構築を推進すべく検討を進めており、12月にパブリックコメントを実施する予定です。計画内にケアラー支援という言葉を明確に表記してはおりませんが、議員御指摘の趣旨は反映されたものとなっており、今後も引き続き家族介護の負担感の軽減に努めてまいります。
次に、御提案のケアラー支援条例の制定についてです。
条例や計画の策定は、地域のニーズや資源、課題の分析を踏まえることはもとより、既存の条例等との整合性や区全体の条例体系とのバランスを考慮する必要があります。現在、令和元年に発表された認知症施策推進大綱で、市町村に対して認知症施策推進計画策定が努力義務とされたことを受け、認知症施策推進条例が検討の俎上にあります。御提案の介護者支援の条例についても、行政、区民、事業者、地域、関係機関等が一体となって高齢者の生活を支える地域共生社会の実現に向けた取組へと転換していくため、今後検討してまいります。
次に、家族介護者支援マニュアル及び千代田区版ケアラー手帳の配布についてです。
区では、在宅療養の高齢者を関係多職種で支援する情報共有のツールとしてチームケアファイルという加除式のファイルを配布しています。このファイルに挟み込まれているシートの構成は現状、要介護者御本人に関する情報の記録及び共有を念頭にしたものとなっております。今後、議員御提案のケアラー支援に資する情報の充実を図ってまいります。
今後も区の充実した相談体制を生かし、関係他機関との連携を図りながら、既存の事業を効果的に調整しながら、ケアラーを支援してまいります。