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平成29年第4回定例会

乳幼児の保育・教育について

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世田谷区保育の質ガイドライン「せたがやのほいく」を提示して!

〈質問通告〉

乳幼児の保育・教育について

  • 保育所保育指針、幼稚園教育要領、こども園教育保育要領の改定が3月に行われた。そこで、改めて​区としての保育・教育のあり方について基本的な考え方を問う

  • この度の改定を受け、「就学前プログラム」の更新が必要となる。その際、保育・教育についての基本的な考え方を「理念」また「方針」として記述してはどうか。また、コンパクトでわかりやすい保護者版(一般向け)「就学前プログラム」の作成を提案する 所見は

乳幼児の療育は特に重要である。早期発見、早期支援を関係機関が連携しながらまた乳幼児の成長に即して切れ目なく行っていく必要がある そこで、

  • 乳幼児の療育について基本的な考え方を問う。

  • 早期発見、早期支援の方法として、大津市で行っている「赤ちゃん手帳」は有効である。千代田区版の「赤ちゃん手帳」の作成を提案する。所見は。

  • 乳幼児の療育需要増に対応するため子ども発達センターさくらキッズの拡大は。

  • 療育費用の無償化について

〈質問と答弁の全文〉

 平成29年第4回定例会にあたり公明党議員団を代表して質問を行います。
 質問の趣旨は、幼稚園教育要領、保育所保育指針、認定こども園教育・保育要領が今年3月に改定され来年の4月に施行となることを受けて、改めて保育の質とは何か、また子どもの育ちを保障するとはどういうことなのかを考え、療育も含め、必要な施策につなげていくことにあります。
 さて、本年8月21日の日経新聞に「保育所 幼児教育の場に」「世界各国 質への注目高まる」との記事が掲載されていました。オランダ、オーストリア、英国、ニュージーランドなどの取り組みとOECDの田熊美穂シニア政策アナリストの以下の意見を紹介しています。「子育て施設の質には規制と周囲とのかかわりという2種類の視点がある。施設の広さや子ども一人当たりの職員数が規制の質にあたる。日本の認可保育園の場合、こうした規制は充実しているとされる。ただ、子どもと周りの職員や保護者とのかかわりも教育の質を左右」しますと。そして記事では「就学前教育、何が必用か」と問いかけ、「日本では保育所の質より量の議論を重視してきた」が、「保育と教育の質の充実を考えていきたい」と結んでいます。その通りだなと読みました。ただ、2種類の視点の内、質の確保に一定の規制が必要なことはわかりますが、もう一つの「周囲とのかかわり」とは具体的にはどういうかかわりのことを意味するのかその記述はありません。
 「かかわり」の意味するところですが、新潟大学准教授の世取山洋介(よとりやまようすけ)氏が「子どもの権利条約と保育」という論文(平成23年)の中で述べていることが参考になります。「子どもの権利とは、子どもが、『ねぇ、ねぇ』と発する言葉に、大人が『なぁーに』と答える人間関係をきちんとつくることです」と述べ、具体的には「①子どもの主体性を尊重し、②子どもがその欲求を満たしてもらえる大人との間の受容的で応答的な人間関係を保障し、そして③そのような関係を通して成長発達を現実のものにするということを意味しています。この三つのことは、子どもが大人になるまで子どもが成長発達するすべての場、すなわち家庭でも、保育園でも、幼稚園でも、学童保育でも、学校でもそして地域でも必要とされます」(「基礎から学ぶ子どもの権利条約と保育」2011年より)と。つまり、子どもの主体性を尊重し、またどんな小さなサインであっても受け止め子どもを認めてあげて思いっきり愛してあげるそのような「かかわり」が必要であり、そのような「かかわり」の中で子どもは育ち成長していくと。私も大いに賛成であります。まさに保育の質に関わる子どもへの「かかわり」方であります。
 この度の保育所保育指針の改定では3歳未満児のところの内容がまるまる新しく書き加えられました。そこのところの本文を紹介したいのですが時間がありませんので、これまで改定を検討してきた社会保障審議会児童部会保育専門委員会が出しました「指針の改定に関する議論のとりまとめ」から一部引用させていただきます。「子どもの主体性を育みながら保育を行うことが重要である。また、保育士等との信頼関係の構築により基本的信頼感を形成することは、生涯を通した自己肯定感や他者への信頼感、感情を調整する力、粘り強くやり抜く力などのいわゆる非認知能力(認知能力とはIQとか学力テストなど数値で測れる能力をいい、非認知能力とは他者への信頼感や感情を調整する力、粘り強くやり抜く力などの能力をいいます)を育むことにもつながるものであり、保育士等が子どものサインを適切に受け取り、子どもたちの自己選択を促しつつ温かく応答的に関わっていくことが重要である」と。まさに世取山(よとりやま)氏が述べられたことと順番は違っても内容は同じであります。
 乳幼児期の保育・教育が重要であることについて2001年世界子供白書では大脳生理学の面から説明しています。「子どもが3歳になるまでに脳の発達がほぼ完了する。新生児の脳の細胞は多くの成人が『何が起こっているのか』を知るずっと前に増殖し、シナプス(神経細胞の相互間の接合部)による接合が急速に拡大して終生のパターンが作られる」「子ども時代の初期では親や家族その他の成人との間の経験や対話(かかわりの部分)が子どもの脳の発達に影響し、十分な栄養や健康や綺麗な水などの要因と同じくらい影響力を持つ」、「人体の奇跡ともいえる脳細胞の結合は部分的には遺伝子に、部分的には幼いころに起こったことに左右される。さまざまな経験が幼い脳の発達の仕方に影響するが、早期のケアや養育ほど重要なものはない」と。さらに、「脳はすばらしい自己保護と回復の機能を持っている。だが、子どもが生後最初の数年間に受ける愛情に満ちたケアや養育、あるいはそうした大事な経験がないことが幼い心に消すことのできない刻印を残すことになる」と。乳幼児期という脳が発達するときの「ケアや養育」の良し悪しは子どもの成長に大きく影響するとの説明であります。白書では「ケアや養育」という言葉を使っていますが「保育・教育」と言い換えても良いと思います。
 区は、「子どもが健やかに育つための環境の確保に関する条例」を平成26年に定めました。前文で「すべての子どもの最善の利益が実現され、子どもを産み育てることに優しく、子どもが健やかに育成される環境を確保するため、この条例を定める」と、子育てする親への支援と子どもの健やかな育ちを保障する大事な条例であります。ここでいう「環境」とは何を意味するのか。条例の第2条、「定義」の中にはありません。この度の保育指針の改定を踏まえて改めて考えてみる必要があります。
 「環境」とは、勿論子どもの外遊びができる園庭の確保も入ると思いますが、「人的」、「物的」、「空間」を意味し、「人的」環境とは、述べてきました大人の子どもへのかかわりであり、また子ども同士の集団での遊びを通した学びができる環境といえます。「物的」また「空間」としての環境とは、あくまで子どもの主体的な活動を促すための環境です。公明党議員団として先日新宿区の認定こども園せいがこども園に視察にまいりました。(写真1を表示)

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​写真1

 一つの例ですが、これは、園で使っているゾーン表であります。絵本ゾーンや製作ゾーン、ごっこゾーン、文字・数・科学ゾーンなどがあり「開」になっているゾーンなら子ども自ら選ぶことができます。そのように遊具やゾーンを用意することが「物的」また「空間」としての環境であると思います。(写真1を閉じる)
 以上のことを踏まえ、「環境の確保」とは環境としての「人的」、「物的」、「空間」を確保することであり、もって子どもの健やかな育ちを保守していくことであると思います。
 幼児教育についても若干触れておきたいと思います。
 幼児教育といっても小学校以上の教科学習とは違います。訪問したせいがこども園園長の藤森平司氏は「乳幼児期は遊びこそが学びそのものです。音楽、文字、数など遊びの中で意欲や不思議さを感じることが大切です。それが非認知能力の高まりに繋がり、困難に立ち向かえる子どもとして育っていきます。そのことをしっかりと深めていくことこそが乳幼児教育だと思います」「非認知的な能力の基礎を身につけることが基本的な人格の形成に繋がっていき、より良い人間性の土台を築くことにな」ります(「これからの乳幼児教育に求められる力」藤森平司氏より)と述べています。
 そうだとすると、乳幼児の保育も幼児教育も基本的な考え方としては同じであると思います。
 幼稚園、保育園、こども園の各要領と指針が改定されたこと、保育指針については子どもの権利の視点が3歳未満児の内容として新たに加えられたこと、またその内容は子どもへの「かかわり」方として保育・教育の質の向上にとって重要であること、そして区の「子どもが健やかに育つための環境の確保に関する条例」でいうところの環境の意味するところについて述べさせていただきました。
 そこで、この度の要領や指針の改定を受けて、乳幼児の保育・教育のあり方について基本的な考え方をお伺いします。また、保育・教育の質とは何か、子どもの育ちを保障するとはどういうことなのかも合わせてご答弁ください。あと、一点、「子どもが健やかに育つための環境の確保に関する条例」でいうところの「環境」の意味するところは何か改めてお伺いします。


 次に、就学前プログラムについてであります。
 就学前プログラム作成の目的は、区立・私立の設置主体の別や、保育園・幼稚園といった認可形態の違いにかかわらず子どもの保育・教育の質を同等に確保するために幼稚園の先生や保育士さんなどに向けて書かれたものです。内容は写真なども使い子どもの育ちに合わせて詳しく丁寧に書かれています。
 この度の改定に伴いプログラムの更新が必要ですが、2点要望があります。
 その一つは基本理念、方針のところです。最初に問いました区として「目指すべき保育・教育の質とは何か」また「子ども育ちを保障するとはどういうことなのか」など基本的な考え方を理念や方針として明確にしてはどうでしょうか。ご所見をお伺いします。
 もう一点は、更新に合わせて、保護者版就学前プログラムを作成してはどうかということです。このことについては、世田谷区が今年3月に作成した保護者向け「保育の質ガイドライン」が参考になります。
 もともとの「保育の質ガイドライン」は平成27年の3月に子どもの権利の視点から作成されました。先ほどの①子どもの主体性の尊重も、②大人の受容的で応答的な関係も、③遊びの中での教育も質のガイドラインとしてしっかり入っています。(図1を表示)

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図1

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​図2

 そして、保育の質向上のためには行政や事業者のみでなく保護者や地域の方もこのガイドラインを共有し力を合わせることが必用と「保育の質ガイドライン」の保護者版ブックレット(現物も提示)を作成しました。サイズもコンパクトで必要なポイントもマンガなどを使いわかりやすく書かれています。今年3月に2万部を作製しましたがすでに足りなくなり早くも増刷中とのことです。一番知ってもらいたい人に一番知ってもらいたいことが書いてあるブックレットの作成はすばらしいことと思います。

 そこで、就学前プログラムのコンパクトでわかりやすい保護者版の作成を提案いたします。ご所見をお伺いします。(図1を閉じる)

 次に、乳幼児の療育についてであります。(図2を表示)
 この表は、発達の障害と「発達障害」の概念を図にしたものです。
 療育とは、障害のある子どもたちが、医療・訓練・教育を通して子どもたちが抱えている生活上の困難をできる限り克服し、持てる能力をより有効に伸ばす専門スタッフによるアプローチのことです。一般的に、障害乳幼児は出生の2%~3%であり、発達の障害(その疑いを含みます)を持つ幼児は約7%で合わせると約10%であるといわれています。
(図2を閉じる)
 千代田区では、子ども発達センターさくらキッズのスタートは平成24年ですが利用登録の人数は年々約50人ずつ増えており現在292人となっています。事業の内容としては、個人指導と集団指導があり、個人指導では理学療法、言語療育、心理療育、作業療法があります。集団指導と合わせた延べの利用人数は年間で5418人にもなるそうです。団として現場を見させていただきましたがすばらしい内容でさくらキッズの評判の高いことも納得できます。なお、幼稚園や保育園に通いながらさくらキッズの療育を利用している乳幼児は200人となっています。また小学校1年生は45人となっています。
 昭和女子大学教授の石井正子氏は「発達初期に生じる障害は二つの意味で特別な配慮が必要です。第一に、人間としての様々な能力の獲得過程で起こる障害ですからその影響は生涯にわたり、広範な影響を及ぼす可能性が高いといえます。第二に、心身の発達途上であるこの時期の人間は可塑性に富み、障害を補償し、環境に適応する能力の発達が著しい時期でもあるということです」(「乳幼児発達心理学」P.154より)と述べています。専門用語もありちょっと難しいので、石井先生に直接電話して、特別配慮が必要な意味についてお伺いしました。「『可塑性』に富み『障害を保障し』とは障害を補おうとのする能力の発達が著しいということです。だから障害があっても幸せに生きていけるということです。またそのことを多くの方に知ってもらいたい」と話されていました。とても良いことが聞けました。また、乳幼児の療育がいかに大切かということがわかりました。
 療育ということでは、滋賀県大津市の乳幼児健診を中心とする大津方式が有名であります。先週、私は大津市保健所健康推進課と発達相談センターを視察にまいりました。たまたまその日が3歳6か月健診の日でありその様子も見ることができました。
 大津方式は、乳幼児健診にその特徴があり、担当者の合言葉としての「三つのゼロ」、制度が目指す目標としての「三つの鍵」、そして行政担当者が留意すべき「三つの留意点」からなっています。「三つのゼロ」とは、①受信漏れゼロ、②発見漏れゼロ、③対応漏れゼロであり、「三つの鍵」とは①乳幼児期に障害を発見して治療や訓練につなげる鍵(を渡すこと)、②2歳代に早期療育と両親教育を受けることのできる鍵(を渡すこと)、③3年間の障害児保育を受けることのできる鍵を渡すことです。
 特徴である乳幼児健診ですが、4か月、10か月、1歳9か月、2歳6か月、3歳6か月と5回行われています。10か月以降の検診は市が直接行っており、小児科医師、保健師、看護師、歯科衛生士、栄養士がスタッフとして診ています。また1歳9か月以降の健診では発達相談員も加わります。
(写真2を表示)(現物を提示)

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​写真2

 これは健診の手引きとして乳幼児問診シールと共に保護者に渡している「赤ちゃん手帳」です。子どもの健診の記録と0歳から3歳までの乳幼児の育ちの特徴と保護者として子どもへのかかわり方を「心の発達」や「生活のすがた」「運動のようす」として書かれています。またすべての問診表には子どものことだけでなくお母さんの困っていることや相談したいことなども記入できるようにもなっています。(写真2を閉じる)

 早期からの療育は、障害のある子どもの発達を保障するという意味から不可欠であります。赤ちゃん手帳を使いながらの健診と関係機関との連携で、早期発見、早期対応など三つのゼロと三つの鍵を確実に行っていることが大津方式であることがわかりました。
 千代田区でも保健師による赤ちゃんの生まれた全家庭を訪問する赤ちゃん訪問事業を始め、健診は3か月、一歳6か月、3歳ですが医師や保健師また発達相談員などが入り行います。乳幼児の障害について早期発見、早期支援へ保健所、児童家庭支援センター、幼稚園・保育園など関係機関が連携しながら行っています。今後、就学してから後も継続的な療育と発達の支援ができるように、また関係機関の連携がより密にできるよう「子ども総合サポートセンター」を構想することも必要となっています。
 乳幼児の療育について、大津市の例を紹介しながら述べさせていただきました。
 そこで、乳幼児の療育について区としての基本的な考え方をお伺いします。また、乳幼児健診を通しての早期発見、早期支援また継続した支援へ。そして母親の子育て支援のツールとして大津市の「赤ちゃん手帳」は大いに有効であります。千代田区版の「赤ちゃん手帳」の作成を提案します。ご所見を伺いします。
 また、乳幼児の療育に対する需要は述べましたように年々増加しており、さくらキッズの拡大は是非とも必要な状況となっています。さくらキッズの拡大の検討状況はどうなっているのか、お伺いします。合わせてご答弁ください。


 最後に、療育費用の無償化についてであります。
 療育にかかる費用ですがさくらキッズは無料ですが、民間は一割負担となっています。
 申し上げましたように現在のさくらキッズの規模では乳幼児の療育需要のすべてに対応することは困難となっています。区内には2社だそうですが都の認可を得ている民間事業者が行なっている療育をやむなく使わざるを得ません。さくらキッズに通っている乳幼児も必要な時間数を確保できないため民間の療育(児童発達支援サービス)を使わざるをえないのが現状です。そういう乳幼児は現在約60人いるそうです。
 子どもの権利条約第23条には、障害のある子どもの権利と療育について書かれています。第1項では、障害のある子どもの人間らしく楽しく生活できるための条件として、「尊厳の確保」、「自立の促進」、「地域社会への積極的参加の助長」が示されています。第2項で、特別なケアを権利として認めます。そして第3項では、①障害のある子どもの特別なニーズを認めること、また②援助に要する費用は可能な限り無償で与えられることが記述されています。誠に大事なことが謳われています。
 鹿児島市では2007年(平成19年)の4月より、その療育にかかる費用を民間も含めてすべて無料としました。現在の市長は4期目ですが当初より「子育てするなら鹿児島市」を公約に掲げ子育て施策の充実に取り組んでこられたそうです。療育費の無料化もその一環ですと。大変すばらしいことであります。
 そこで、障害のある子どもたちの今と将来の幸せのために必要な療育を費用の心配なく受けられるよう、また負担の公平性の観点から療育費の無償化を提案します。ご所見をお伺いします。

 以上、乳幼児の保育、教育、療育について質問させていただきました。区長、教育長、及び関係理事者の前向きな答弁を期待しまして公明党議員団を代表しての質問を終わります。ありがとうございました。


 
〈区長答弁〉
 
 大串議員の、区としての乳幼児の保育・教育の基本的な考え方についてのご質問にお答えいたします。
 その基本的考え方は、保護者であろうと、大人であろうと、教育の現場の方であろうと、行政であろうと、乳幼児や子どもたちに対して寄り添い、子どもの最善の利益が実現できるように取り組むことが、私は、基本だろうと思います。多分、そうした意味でご質問があったんだと私は認識しております。
 そこで、私たちは、ご承知のとおり、ご質問にもありました、平成26年度につくりました、「子どもが健やかに育つための環境の確保に関する条例」も、そうした思いで、安心して子育てができ、子どもたちがすくすく育つ地域づくりのための基本的な条例であります。あるいは、ご質問の中にもありました、遊び場の確保についても、まさに子どもが遊びを通じて学び、そして育つものであるということが条例の基本にあります。そして、遊びを通じて、人間関係や社会規範を学び、ひいては、体力や運動能力も自然に身につくという、そういう考え方のもとに、子どもの遊び場に関する条例も制定したわけでございます。
 こうした考え方は、子どもさんの最善の利益、そして、大人たちが寄り添ってさまざまなことをするという基本的な考え方で条例ができているわけでございます。
 今回の国による保育指針等の一連の改定は、これまで、私たちが取り組んできた保育・教育の方向性と、私は、軌を一にしているだろうと思います。今後も、こうした条例の持っている考え方の内容を、さらに肉づけをして、魂を入れていくことが肝要だろうと思います。そのための基本的な考え方は、子どもの主体性を育み、小学校の教育に切れ目なくつなげる就学前の教育の充実というのが最も肝要だろうと思いますので、そうした点も含めて、これからもさまざまに施策を展開してまいりたいと思います。
 なお、詳細及び他の事項については、関係理事者をもって答弁をいたさせます。

〈子ども部長答弁〉

 大串議員の乳幼児の保育・教育のあり方に関するご質問について、区長答弁を補足してお答えいたします。
 まず、来年度から施行される、改定された保育所保育指針や幼稚園教育要領等の内容は、議員ご指摘のとおり、0歳児から2歳児の保育の記載が充実したことや、保育所が幼児教育の場として位置づけられたこと、何よりも子どもの主体的な活動を援助する役割を担うことなどを明文化したことなど、日本の乳幼児の保育・教育にとって大変重要であると認識しているところでございます。

 次に、保育・教育の質についてですが、2015年、OECD(経済協力開発機構)が、保育の質とは、「子どもたちが心身ともに満たされ、豊かに生きていくことを支える環境や経験」と位置づけております。乳幼児教育は、遊びを通じて学びに発展させていくため、我々もOECDの言っている子どもとのかかわり方として、主体性の尊重、受容的で応答的な関係、そのような中で育つとした認識どおりであると考えております。

 次に、子どもの育ちの保証及び「子どもが健やかに育つための環境に関する条例」の環境の意味についてですが、ご指摘にもあった、子どもの主体的な活動を促すため、子どもが安全・安心して遊べる環境を、地域が一丸となって構成していくことにほかならないと考えております。時代によって地域の環境は異なっていくと存じますが、条例第3条に基づき、区は、子どもの立場に立って、子どもの最善の利益が実現される環境が実現されるよう努めてまいります。
 次に、千代田区の子どものための就学前プログラムについては、概要版は作成しているものの、保育士や幼稚園教諭を対象にしているため、保護者目線に立った保育・教育の記述になっていないことは否めません。ご質問の中の世田谷区の「なるほど!せたがやのほいく」を見ますと、漫画や挿絵を活用し、保育内容を丁寧かつわかりやすく記述している印象です。そのため、本区としても、就学前プログラムについては、ご指摘を踏まえ、「目指すべき保育・教育の質」などを、多くの人に内容を理解していただけるよう工夫して周知を図ってまいりたいと思います。具体的には、例年7月に発行している「子育て応援ガイドブック」に、この内容を盛り込むことを検討し、対応してまいりたいと考えます。

 次に、乳幼児の療育に関するご質問にお答えします。
 まず、乳幼児の療育について、区としての基本的な考えですが、子どもの障害は、脳の発達が著しい、できるだけ早い乳幼児期に発見することが大切であり、発見後は、早期療育へとつなげることが重要であると考えています。
 子どもの障害等の発見については、出産時における医療機関での診断、保健所での乳幼児健診、保育園、幼稚園の利用から、児童・家庭支援センターやさくらキッズへとつながり、個々の状況に応じて療育指導が開始されます。関係機関が連携しながら、乳幼児の発達に即して早期に療育を開始します。
 区は、障害等をお持ちのお子さんと、その保護者が、安心して地域で暮らしていけるように、子どもケアプランの導入を検討しています。大津市の取り組み等も参考にしながら、乳幼児期から就学後も切れ目のない支援を行う仕組みを検討してまいります。
 また、大津市の「赤ちゃん手帳」については、年齢に応じた育ちの特徴やかかわり方についての信頼できる情報を行政が提供しており、発育・発達の細やかな記録を1冊のノートに保護者が記録し、関係機関と切れ目なく共有できる点が非常にすぐれていると考えます。現在、区は、母子健康手帳のほかに、「母子健康手帳副読本」、「予防接種と育児応援ナビ」など、さまざまなツールを提供していますが、これらを整理するなどして、保護者が活用しやすい情報の提供について検討していきます。
 また、情報共有の仕組みについては、まずは「子どもケアプラン」として、障害をお持ちのお子さんから構築していきます。
 次に、さくらキッズの拡大の検討状況ですが、さくらキッズは、登録者、利用者とも年々増加しています。さくらキッズでは、お子さん一人ひとりの状況に応じて指導を進めており、保護者の方と相談しながら利用調整を行っています。個別指導の枠を拡充したり、また、特に需要の多い言語療育の専門スタッフを増やすなど、対応しています。さくらキッズの拡大については、需要のバランス、法内か法外で事業を拡大するのかなど、さまざまな課題がありますが、増え続ける需要に対して、確実な対応策を考えてまいります。

 最後に、療育費用の無償化ですが、さくらキッズは、ご指摘のように子どもの発達についての気がかりや心配について、気軽に相談し、利用できるようにと、療育に関しても無料となっております。民間事業者の療育を受けている子どもは、その特性により、さくらキッズと併用しているお子さんも多いという現状があります。この民間事業者のサービスを受けるに当たり、現在は、関係法令の中で、低所得の方は負担はゼロであり、それ以外の方も、負担上限額が定められております。
 今後、民間事業者の療育サービスの負担の考え方については、保護者の負担軽減の観点から検討してまいります。
 

(参考)

 「かかわり」の大切さが11月の30日の聖教新聞「名字の言」にありました。今回の質問のテーマである「かかわり」の大切さの例です。また石川先生の言う「可塑性」「障害を保障する」能力の著しい発達の例でもあります。以下その部分を引用。
「デビュー10周年を迎えた。〝盲目のピアニスト〟辻井伸行さん。彼の演奏は〝色彩感にあふれている〟と評される。その要因の一つが、母・いつ子さんのかかわり方にあった。▼息子さんは盲目ーそう告げられた母は育児書を読みあさった。だが、そこには健常者の〝見える世界〟に適応させようとする記述ばかり。失望しかけたとき、知人の視覚がい害から言われた。「生まれながらに『見えない』世界に生きる人にはその世界観があります」▼〝「適応」ではなく、その子らしく育てよう〟。水の音、木々のささやきなど、大自然の美しさを感動のままに伝えた。ある時、伸行さんが聞いてきた。「今日の風は何色なの?」。息子が豊かな彩りの世界にいることを教えられた(『のぶカンタービレ』アスコム)」

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