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真心の伝わる政治を!
大串 ひろやす
平成12年第4回定例会
教育改革について
〈質問通告〉
教育改革について
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三つのキーワードについて
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「ゆとり」と学力低下の問題について
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家庭・地域社会の教育力向上へ
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自主的な学校運営を
〈質問と答弁の全文〉
平成12年第4回定例会に当たり、公明党議員団の一員として一般質問させていただきます。
英国のブレア首相はこう言われるそうです。「政府の主要な政策は三つある。教育、教育、教育だ」と。教育にかける首相の姿勢がよくわかります。教育は強調し過ぎてし過ぎることがない重要な課題です。欧米の先進国、途上国ともに次代を担う人材を育てる教育改革に必死です。私は、今回この教育改革一本に絞って質問させていただきます。
日本の戦後教育は、機会の平等のもと、小学校、中学校とも全国一律同じ教育がなされてきました。結果として平均的な人間を作ったのではないでしょうか。皆と同じ行動をとっていれば安心という判断をする、本人が意識せずともそうなっていったのではないでしょうか。これは欧米に経済面で追いつくために好都合な教育でもありました。 堺屋長官の言葉を引用すれば、「日本は、教育を通してできるだけ同じ人間、『規格大量生産』に向いた人間を育成しようとした。『規格大量生産』に向いた人間とは、第1に辛抱強いこと、第2に協調性、そして3番目に共通の知識と技能を持っていること。Aの人が正しいと思うことは、Bの人も正しいと思う。そして大事なことは、独創性と個性が少ないことです。そして学区制は平均化するために設けられた」ということになります。まさに社会のある目標に対して、教育が手段化された歴史であったと思います。つまり「社会のための教育」であったのです。
アメリカのラリー・サマーズ財務長官は、日本は創造的な豊かな人材を育てることを怠ったと述べたそうですが、まさにそのとおりだったと思います。その教育の弊害は今改めて述べるまでもないと思いますが、数字的なものは、例えば不登校は、昨年度の学校基本調査で小・中学校でのそれは13万人を超え、過去最高だったことが報告されました。小学校では290人に1人、中学校では実に40人に1人、1クラスに1人が苦しんでいるということになります。そのほか、いじめによる自殺、また14、15歳の少年による殺傷事件、そして学級崩壊等であります。
子どもたちは「ノー」と叫んでおります。経済大国を目指し、それが達成された現在ほど、改めて何のための教育か、何のために学ぶのかが問われています。大人の責任として明確に答えていかなくてはなりません。教育基本法には、目標を子どもたちの「人格の完成」とうたっています。すなわち、子どもたちの幸福こそ教育の目標であると。私も全くそのとおりであると思います。そこで、新しくなられました教育長に、千代田区における教育改革とは何か、速さを伴った時代の変革期に教育の進むべき方向を示していただきたいと思います。
さて、その戦後教育の反省に立ち、現在の文部省主導の教育改革はどういうものか、少し述べたいと思います。それは三つのキーワードに集約されると私は思います。つまり「ゆとり」と「自由化」、そして「地方分権」であらわせるのではないでしょうか。「ゆとり」とは、家庭、地域社会、学校を通じた、子どもたちに「ゆとり」を持たせ、自ら学び、考え、行動できる生きる力を育むこととされています。「自由化」とは、個性を伸ばし、多様な選択ができる制度。「地方分権」とは、現場の自主性を尊重した学校づくりの促進です。
平成10年6月に学校教育法の一部改正が行われ、公立の中高一貫教育の選択的導入が可能となり、その年の12月には11年ぶりの学習指導要領の改正となりました。内容は、週5日制の導入に代表される「ゆとり」の回復、また、学区制の見直しや中高一貫校の増設など、「自由化」を進めるための制度的規制緩和。そして、各学校が主体的に進める特色ある教育、特色ある学校づくりです。
区としても、平成10年9月、中学校教育検討会を立ち上げ、2年間の検討を経て、今年8月に最終報告がなされました。内容は、千代田区として望ましい実施形態はどれか、どのような生徒を育てるのか、基本的な目標をどこに置くのか、学校規模をどうするのか、教育内容をどう特色づけていくのか等でありました。この中学校教育検討会については、昨日の拓く会の代表質問でもされましたし、今まで定例会の都度質問もありましたので、私は、小学校、中学校の教育改革につき、三つのキーワードの観点から質問させていただき、区として今後どう教育改革に取り組むのかを問うていきたいと思います。
まず1点目に、「ゆとり」と学力向上のバランスをどう図っていくのか、この点からまずお伺いします。
不登校やいじめ、あるいは学級崩壊という問題とともに、教師や学校を悩ませているのは「学力低下」の問題かもしれません。「ゆとり」に対して学力低下の問題はマスコミでも指摘されています。現在、教室での学習時間は、世界の主要国中、日本は年間875時間で、28カ国中18位、10位の米国より100時間少なくなっています。国語や数学という基礎科目では、平均を25時間下回っています。平成14年度からは新学習指導要領により、現状からさらに3割授業時間は少なくなります。
学力低下への不安は誰もが持つでしょう。反面、新設される「総合的な学習」が子どもたちの学習意欲向上へ、そして学力向上へつながっているとの報告もされます。これら「ゆとり」と学力向上はどうバランスしていくのか。区民に対する十分な説明と検討が必要です。慎重過ぎるくらいの対応があってもいいと思います。
次に、「ゆとり」「自由化」に対して、家庭サイドに、あるいは地域社会にどのような備えがあるのか、また、家庭、地域社会の教育力をどう高めていくのかについてお伺いします。
教育は学校だけで行うものではなく、家庭、地域社会も含む社会全体で行うことが、私は教育改革の基本であると思います。よって、教育改革の目指すものは何か、また何のための「ゆとり」か、そして何のための「自由化」かを、家庭、地域社会、学校がともにしっかり理解していくことが重要であります。これらが明確にならないまま制度だけを変えてみても、かえって悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。特に「総合的な学習時間」、いわば体験学習は地域の協力が不可欠です。地域社会の教育力、備えがあってこその制度改革です。
総合的な学習は、既に番町小学校では今年から試行実施をしています。上智大学の留学生を招いての小グループによる学習、大妻大学と連携したお茶の教室など、子どもたちの生き生きした授業が行われ、学習意欲の向上につながっているとのことであります。また、富士見町の方でも地元のボランティアグループの協力をいただいて、小学生が一緒に環境に関する地域貢献活動に参加し、そのすばらしい体験の報告がなされています。そのほか、以前から各小学校で行っている「ふれあい給食」なども、一つの総合的な学習であると思いますが、子どもたちの貴重な体験になっているとお伺いしています。
いずれも、地域社会の教育に対する理解と協力を得てできる学習であります。このように地域のボランティアグループ、大学等が自主的に学校教育にかかわっていく。千代田区には大学はもとより、いろいろな施設、機関もあり、人材も豊かです。あるだけでは教育力とは言えず、教育を理解し、自主的に教育にかかわっていこうとする、これが地域の教育力です。これらがあって真の教育改革につながるのではないでしょうか。子どもを真ん中に家庭、地域社会、学校が教育の目的を共有し、しっかりしたトライアングルを築くことが重要です。そのことが教育を手段とした「社会のための教育」から、子どもたちのための「教育のための社会」へと大きく変わることになります。その方向へ区として強いリーダーシップが今求められていると思います。
最後に、「学校の教育力」とも言える学校の裁量権の拡大、また、自主的な学校運営はどう行っていくのか、お伺いします。
教育こそ地方の時代と言われます。それは、今までの中央主導の統制型教育システム、つまり国による公立学校の一元管理から、学校ごとの裁量権の幅を広げる教育の地方分権への大きな転換です。平均化された均一の授業から学校ごと特色ある教科へと、また特色ある学校づくりへの転換、まさに子どもの多様性と自主性を尊重した学校運営が望まれています。今、各自治体ごと真剣に子どもたちの幸福のために教育について考え、改革に取り組んでいます。私たち千代田区から模範の「教育のための社会」が実現されることを望み、私の質問を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
〈区長答弁〉
大串議員の教育改革についてお答えいたします。
我が国の教育の現状は、少子・高齢化、高度情報化、国際化が進行する中で、大きな変革期に直面しておるものと私も認識をいたしております。また学校では、いじめや不登校、また児童・生徒の問題行動などが依然として解消されず、深刻化をいたしておるという状況も見受けられます。さらに社会においては、経済のグローバル化の進展に伴う国際企業間の競争や、情報通信技術の急速な発達に迅速に対応できる人材の育成が求められております。
このような状況の中で、今日求められておる教育改革は、単に目の前の社会変化に対応するだけではなく、21世紀という不透明な世紀を夢のある世紀にするため、予想される変化を見通し、先取りするようなものであることが必要だと思います。そのために、ご質問にありますように、国において現在新しい教育の方向が示されておるわけですが、目標とする教育をより確かなものにするためには、今ここで改めて私たちの足元を見直すことが必要であると思います。すなわち、千代田区の特性やまた実情を踏まえた主体的な教育を行って、独自性を発揮していくということが肝要であろうかと考えております。
なお、本区における具体的な教育改革につきましては、教育長より答弁をいたさせます。
〈教育長答弁〉
大串議員のご質問にお答えいたします。
まず、千代田区における教育改革の方向、考え方について、区長答弁を補足してお答えいたします。
今日求められている教育改革は、子どもの幸せのためのものであることはもとよりですが、区長が申し上げましたように、変化を予測し、先取りしたものであることが必要でございます。また、千代田区の特性や実情を踏まえた主体的な教育を行い、独自性を発揮していくためには、総合的、計画的な取り組みが大切であります。
現在、区として第三次長期総合計画を策定しているところですが、その基本構想案の中で、「教育と文化領域」の基本目標として「心豊かに学び、文化を創り出すまち」を掲げ、次のような考え方を述べております。それは「すべての世代の区民が、その人格と個性を尊重され、心豊かに活力ある生活を送ることができるよう、生涯を通じた学習やスポーツによって自己実現を図り、自らの持つ能力や知識を地域社会に還元していくことのできる環境づくりを行うこと。また、地域の伝統・文化を守り、育てながら、千代田らしい新たな文化を創造していくこと」であります。
具体的には、議員のお話にもありましたように、一例として、中学校教育検討会からの報告を受け、中等教育学校の新設について内容の検討を始めているところでございます。この構想案にある基本目標の達成こそ、千代田区における教育改革の目指すものであり、今後、「教育と文化のまち千代田区」の充実・発展のため、各種の教育施策を総合的に推進してまいりたいと考えております。
次に、「ゆとり」と学力向上のバランスについてのご質問にお答えいたします。
新学習指導要領では、各教科とも内容の3割を削減し、全員が一律に学ぶべき知識等の内容は削減されました。しかし、このことから生じたゆとりの時間は、理解の遅い子どもに対する確実に基礎・基本を習得するための指導や、理解の早い子どもたちを対象とした、より進んだ学習内容の指導、興味等を伸ばすための選択教科の指導など、子どもの個性や能力に応じた指導を一層進めることにつながります。
さらに、新設の「総合的な学習の時間」では、情報・福祉・国際理解・環境問題等、様々な今日的課題に対応する資質や能力等の育成を図ることとしております。したがいまして、学習内容と学習指導方法の両面の改善から、「ゆとり」と学力向上のバランスを図っていくべきものと考えております。
次に、「ゆとり」と「自由化」に対する家庭、地域社会の備えについてでございますが、ご指摘のとおり、「ゆとり」と「自由化」の具現化は、完全週5日制の目指すところと同一であります。すなわち、学校のみならず、家庭、地域社会においても、子どもたちに「生きる力」をはぐくみ、健やかな成長を促すことであります。各学校におきましては、子どもたちに対して学校週5日制への指導を行うとともに、保護者に対して家庭の教育力向上のための啓発を実施しているところでございます。
とりわけ、「総合的な学習の時間」等において、保護者や地域の人材、施設等を活用することは、現代の子どもたちの姿や、学校が育成しようとしている真の学力についての理解を深めることに有効なものとなっております。このことにより、「教育のための社会」の実現につながるものと認識をいたしております。
また、生涯学習やスポーツ振興の事業におきましても、地域の教育力を活用するとともに、親子を対象とする事業など、家庭での教育力の向上を支援しているところでございます。教育委員会といたしましては、学校、行政がさらに連携し、家庭や地域社会への働きかけを行ってまいりたいと考えております。
最後に、学校の裁量権拡大及び自主的な学校運営についてのご質問にお答えいたします。
これからの学校教育は、各学校が創意工夫し、特色ある教育活動を展開する中で、「生きる力」をはぐくみ、個性を生かす教育を充実することであります。そのためにも、校長が強いリーダーシップを発揮し、全教職員が教育目標の具現化に向けて組織的に取り組むことが重要であります。このため、本区においては学校管理運営規則を改正し、職員会議を校長の補助機関に位置付け、校長の裁量権を強化いたしました。
教育内容につきましては、毎年、研究奨励校を指定し、各教育課題等に関して先行的な研究を進め、特色ある教育活動の開発に努めております。今後とも、学校・家庭・地域が真に連携し、子どもの幸せのために、そして「教育と文化のまち千代田区」の充実・発展のために積極的に取り組んでまいりますので、ご了承願います。
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